( 平成23年8月 )



 迷走を続ける政治、進まない東日本大震災の復興、そして足もとで再び経済を覆い始めた暗雲 ――。 現在日本は、試練のときを迎えている。 国としての求心力が失われつつある今、我々は何を目指して歩いていけばよいのか。 長い政治人生の中で、日本という 「国家」 のあり方について提言を続けて来た石原慎太郎・東京都知事が、日本人が取り戻すべき気概とこれから進むべき道について、思いの丈を語る。




――  迷走を続ける政治、進まない東日本大震災の復興、そして足もとで再び経済を覆い始めた暗雲と、現在の日本は多くの試練に直面しています。 激動の時代において、日本人の価値観は次第に変わり、国家としての求心力が失われつつあるように感じられます。 石原都知事は、現在の日本の状況をどう見ていますか。
 私は、日本最大の自治体の首長であると同時に、1人の日本国民です。 大震災で被災した他の自治体への協力など、東京都知事としての目線から考えるべきことはありますが、基本的にはいつも 「国家」 を背景に物事を考えています。

 私はこの頃、日本という国家そのものが衰弱してきているように思えて仕方がない。 何故こんな国になってしまったのか。 それは、戦後66年間、米国の傘の下でよくわからない 「平和」 を享受しながら、何も考えずにやってきたことのツケが回ってきているのだと思います。

 米国は自由、フランスは自由、平等、博愛という国家思想を持っていますが、今の日本人が持っているのは 「我欲」 だけ。 金銭欲、物欲、性欲です。

 最近ショックを受けたのは、30年前に死んでミイラ化していた高齢者が東京都で見つかった事件。 家族が葬式も出さずに遺体を放置したまま、あたかも本人が生きているかのように装って、年金をもらい続けていた。

 ああいうことをする国民は、世界を見回しても日本人しかいません。 象だって、仲間が死んだら鼻で死体を触って弔いをするのに、これでは畜生以下の行為と言わざるを得ません。

 東日本大震災の直後、私は記者会見で 「大震災は天罰だ」 と言いましたが、それは東北の被災地に対して言ったのでは決してない。 「日本国そのものに対する天罰だ」 と言ったのです。 一刻も早い復興を考えるのは大切だが、さらに深い背景から国のあり方を問い直さないと、日本人は復活できないでしょう。




――  国家の在り方を考えた場合、日本人の 「我欲」 が国を衰退させている象徴的な事例は何でしょうか。
 財政が破綻しかかっているのに、見てみぬふりを続けて来たことです。 先日、米国はデフォルトしそうになりましたが、日本も他人事ではない。 GDP対比で考えると、公的債務残高はギリシャやスペインより多い状況です。 このままいくと、日本の国債はあと数年でデフォルトしてしまう。

 しかし、そんな状況にもかかわらず、国民の多くは増税に反対する一方で、もっと社会保障を手厚くしろと自分勝手なことばかり言っています。 しかし、どう考えても、今の高福祉を低負担でできるわけがない。 本来なら、とっくに消費税を20%に引き上げていて然るべき状況なのです。

 このように、国家の危機的な財政状況を国民自身がよくわかっていない理由は、政府や役所がそれをきちんと説明しないことに問題があります。

 以前、亀井静香( 首相補佐官 )に聞いたとき、 「増税しなくても財源はちゃんとある」 と言っていました。 しかし、どこにどれだけあるのかさっぱりわからない。

 亀井君は責任を持って国民に説明すべきでしょう。 本当に財源があり、財務省がそれを隠しているなら、どこにどれだけあるか、何を売ったらいくらになるか、国民に教えてもらいたい。

 そもそも、国家会計を単式簿記でやっている国など、先進国では日本だけ。 日本以外の国では、北朝鮮、フィリピン、マレーシア、パプアニューギニアくらいしかありません。 発生主義を基に複式簿記でやらなければ、まともな財務諸表など出てこないし、どこにまだ財源があるのかどうかも国民にはわからない。 経済界の重鎮ですら、この事実を知っている人は少ないのが現実です。

 以前、経団連のトップたちの前でこの話題を出し、 「あなた方は経済界の幹部なのに、なぜ国家の会計制度を変えさせないのか」 と問うたところ、みんな灯台下暗しで、 「日本が単式簿記だなんて、そんなバカなことがあるのか」 と驚いていました。

 まともな財務諸表も出さずに、納税者が騙され続けている国の国債を買えと言われても、投資家は買う気が起こらないでしょう。 こうした状況は、財務省の嫌がることを報道しない、無知蒙昧なマスコミにも責任があります。




――  日本の財政を改革するにはどうしたらいいでしょうか。
 今の日本では、役人が役人を守るための会計制度になってしまっています。 そういう状況で政治家が事業仕分けをやっても、ムダの削減などできません。 発生主義を基に、複式簿記で会計をやっていれば、ちゃんと財務諸表が出てくるから、国も嘘をつき切れない。 もっと合理的な制度に変えるべきです。
 役所に対しても、外部監査を入れ、人員も給料も減らして徹底的に合理化すべきです。 東京都はそれをちゃんとやったから、財政が再建されて貯金も増えています。
――  結局は、政治が官僚制度をきちんと改革しないとダメということですね。
 日本の戦後の成功は官僚のお陰ですが、同時に失敗も官僚の責任です。 終戦直後から高度経済成長期までは、立派な官僚がたくさんいたが、今は見当たりません。 彼らは、過去の成功にあぐらをかいてしまって、発想力がなくなった。 この変化の時代に継続性や一貫性を売り物にしても、新しい取り組みをできるわけがありません。

 日本をよくするためには、そういう大きな背景から考え直していくべき。 毛沢東( 元中国国家主席 )は 『矛盾論』 の中で、 「目の前の厄介な物事を解決しようと思ったら、その背景にある大きな主要矛盾を変えないと、本当の解決にならない」 と言っていました。 これは、今の政治家が教訓にすべき言葉です。

 ただし政治家にとっては、経験や知識を豊富に持っている役人を有効活用することも、重要になります。 たとえば、震災対応が後手に回って批難されている民主党については、役人をうまく使いこなせないから能率が上がらないのです。

 横串を通すべく、事務次官会議を開いて、行政全体で1つの問題に取り組ませないと、政治家が独創的な発想をするベースとなる情報そのものが、出て来ないリスクがあります。 役人にそっぽを向かれている政府では、素人の集まりに過ぎません。




――  しかし、今の政治家に改革ができるでしょうか。 民主党政権は公務員制度改革をはじめ、マニフェストに掲げた主要な政策の多くが進んでいないか、見直しを余儀なくされています。 一方で、民主党に代わって政権を担えそうな野党も見当たりません。 政界からリーダーシップを持つ人がいなくなってしまった気がします。
 私が主唱して、自民党の国会議員時代に、派閥横断的な若手議員の政策集団 「青嵐会」 をつくりました。 田中角栄さん( 元首相 )のような権勢揺るぎない人間の金権主義に反対したりして、バカか利口か知らないけれど、度胸だけはありましたよ。

 先日、当時我々をよく取材してくれていた新聞社の重役が、 「あの頃はひとクセもふたクセもある政治家がたくさんいたが、今はクセのある政治家がいなくなってしまった」 と言っていました。 なぜそうなってしまったのかわからないが、戦後の日本の教育に問題があったのかもしれません。 どいつも横並びですな。

 私は、自民党が役人の言いなりになってしまったことが嫌で、国会議員を辞めました。 今、自民党の谷垣禎一総裁は、まるで学校の校長先生のような人物に見えます。 だから息子( 石原伸晃・自民党幹事長 )には、 「党を鼓舞して改革できないなら、幹事長なんか辞めろ」 と言っています。

 今の民主党政権は、もっとひどい体たらくです。 菅直人首相も小沢一郎さん( 民主党前代表 )もそうですが、解散総選挙をやったら現在の身分を失ってしまうと思い、権力に固執しています。 周囲も怖いから、菅首相をなかなか降ろせなかった。 これらは保身という 「我欲」 以外の何ものでもありません。
――  そもそも、政治家1人1人が何を実現したいのか、よく見えてきませんね。
 それは選挙制度改革の間違いが大きいと思います。 衆議院が小選挙区制になってから、政治家の器が小さくなった。 当選が難しくなったため、ちまちました利害関係ばかりに心を割くようになり、政治を大きな目で捉えることができなくなったのです。

 一緒に小選挙区制に反対した野中広務さん( 元内閣官房長官 )は、 「夜中に法案が上がるときには誰もおらん。 みんな、新幹線で地元に帰って仕事をしている」 と嘆いていました。




――  では、どんな政治体制が理想的なのでしょうか。
 小沢さんが二大政党制を目指して、小選挙区制を導入したからこうなってしまったが、私はやはりドイツのような三大政党制が理想的だと思う。 2党よりも3つの政党が相互連携してやったほうが、多様な政策ができるはずです。

 日本の政治を根本的に変えるためには、各政党が大連合を行なって強い権力を持った政権をつくる必要があります。 そうすれば、 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」 で、憲法改正、集団的自衛権、消費税の常識的な引き上げなど、様々な課題を一気に解決できます。

 強い権力という意味では、政治体制というより国家体制として、核保有も含めて再軍備が行なわれなければならない。 そもそも私は以前から、日本はきちんとした形で再軍備をしなければいけないと考えていました。

 そうした考え方は、今の日本において必ずしも好ましいものとはされまいが、世界の中での存在感と日本の主張を通すためには、絶対必要条件です。




――  中国や北朝鮮の脅威が増大するなか、国家の安全保障は重要なテーマの1つとなっています。 しかしそのなかで、日本の再軍備が議論されることの意義とは何でしょうか。
 私は、国家の力量の元となるのは 「技術」 だと思います。 2000年以降、自然科学分野でノーベル賞を受賞した日本人の数は、英国を除いた欧州全体の受賞者の数とほぼ同じくらいです。 これは、日本の技術力がいかに高いかを表す証拠です。

 最近の画期的な技術は、 「小惑星探査機はやぶさ」 です。 太陽光で火星のもっと先まで飛んで行って帰ってきた。 再軍備という視点から見ると、あれを活用すればとんでもない戦略兵器ができる。 戦略兵器を載せて飛ばすことができたら、国際社会に対して大きな抑止力になるでしょう。

 これは小説家としての発想かもしれないが、やろうと思えばできないことはない。 そのすごさに気づいていないのは日本人だけで、米国や中国は 「はやぶさ」 計画の行方を固唾を呑んで見守っている。 国際社会で国のステイタスを上げるためには、やはり再軍備が必要でしょう。




――  技術と言えば、大震災を機に最大の懸案事項となっているのが、新たな電力供給の仕組みづくりです。 廃止論が高まる原発について、どんな意見をお持ちですか。
 日本が原子力政策をやめることは、とてもできないと思います。 世界第三位の経済大国である日本は、原発廃止を唱える他国と比べて、産業規模が全く違うからです。

 東京都も今、原子力発電所1基に相当する100万キロワット規模のLNG( 液化天然ガス )を使う発電所の建設を目指しています。 それを発表しただけで外国のファンドからすごい引き合いが来ており、土地だけ提供すればほとんどコストをかけずに建設できる可能性も見えている。

 しかし、こうした自治体ベースの取り組みや、太陽光・風力などの再生可能エネルギーだけでは、日本全体の産業を支える発電力は維持できません。

 フランスがうまく原発政策を推進できているのに、なぜ日本ができないかと言えば、それはシステムが悪いせい。 政治家、官僚、東電が癒着して利権構造ができ上がっているから、利害や情報が交錯してうまくいかないのです。 政府が電力を民営化して、もっと合理的なシステムにすればいいわけです。

 もし原発を止めたら、日本企業はみんな外国へ出て行ってしまい、日本経済は縮小するでしょう。 自分たちが今の贅沢な暮らしを捨てる覚悟があるならいいが、それができないなら冷静な選択をすべきです。
――  話は変わりますが、東京都が熱心に取り組んできた五輪誘致の進捗状況は、どうなっていますか。
 国際社会における五輪の招致は、日本人が考えている以上に熾烈です。 長野五輪のときは、堤義明さん( 元西武鉄道グループオーナー )がIOC( 国際オリンピック委員会 )のサマランチ会長と、太い見えざるパイプを築いたことで奏功しました。

 当時堤さんは、サマランチ会長のワイナリーにあるワインを買い取り、国内全てのプリンスホテルに置いたというほど、熱心に誘致活動をしたんです。 五輪を東京で開催することは意味があることなので、私もその火を消さないために、多くの資金を用意しています。

 しかし、やはり最後は自分の仕事ではなくて、JOC( 日本オリンピック委員会 )の仕事になります。 彼らが国際社会に言うべきことをきちんとアピールしてくれないと、話は進まないでしょう。
――  今後、石原都知事が日本の首相になる可能性はありませんか。
 Too Late でしょう。 もうくたびれました。 私は本当は政治家を引退して、3度目の太平洋横断レースに出るつもりでした。 都知事4選は番狂わせです( 笑 )。